「今帰ったでがすよ〜。」
あの人が帰ってきた。ボク・・・私は、暖炉の前の椅子から腰を上げ、ゆっくりと玄関に向かう。
「おかえりなさい、あなた。」
満面の笑みで迎える。最愛の、あの人を。
そしてあの人は、いつもの通り驚いたような顔をして、私に言う。
「ああ、いけないでがすよ。あんまり動いちゃ。」
「もう、いつも言ってるでしょう?少しは動いたほうがいいんですって。お医者様も言ってたのよ?」
「そうは言ってもでがすね・・・あっしは心配でしょうがないでがすよ。」
心配そうに言うあの人。なんて心優しい人だろう。
「大丈夫よ。だって、あなたと私の子供なんですもの。とっても強いに決まってるわ。」
「そうは言っても、ここは冷えるでがすよ。さ、暖炉の前へ行くでがす。」
「ええ、あなた・・・」
暖炉の前に、あの人と私。
そう言えば、あの人がいつか語った夢もこんな感じだったわ。
今では、あの日々が夢のよう。
剣を取って、女王様(・・・あの時は姫様だったわね。)達の呪いをとくために旅した日々。
思えば、その呪いのおかげでこの人と結ばれることができたのね。
こういう言い方は悪いかもしれないけれど、神様に感謝しているわ。
この人と、出会うことができた奇跡に。
「どうかしたでがすか?」
優しく、問いかけられた。
私は微笑んで答える。
「なんでもないわ。ちょっと、昔のことを考えてただけ。・・・あら?」
動いた。今までに無く、大きく。
そう・・・そろそろだものね。


あなたがこれから生きようとする世界は、とっても素晴らしいところよ?
空も、海も、大地も・・・いくら見たって見飽きないくらい。
さあ、早く出ていらっしゃい。
とってもあったかくて、力強いお父さんが待ってるわよ?
お母さんだって、あなたに会うのが楽しみなんだから。
ほら、どうしたの?あなたは強い子よ?
お母さん、あなたのためなら何だってしちゃうわ。
たくさんの人たちが、お母さんにしてくれたみたいに・・・
だから、ほら。
もう少し、がんばって。