エロティック注意







































上げた悲鳴が、誰かに届くはずもない。今や、何がエイトの中に残されていると言うのか。
エイトの悲鳴に、恍惚とした喜びの表情を浮かべると、尋問官はゆっくりと、汚れを知らない少女の部分に指を滑らした。
いやがおうにも女を思い知らされる恐怖が、エイトのそのむき出しにさらされた白い肌と同じように、心の衣を一枚づつ引き裂いていった。
「・・いやああ、いやああああああ・・・」
一際大きな悲鳴には、声が言霊となって誰かに届いて欲しい思いが乗せられているのか。それともただの絶望か。
悲鳴が、虚しく通路に反響し、こだまのように繰り返し還ってはエイトの耳に自分の悲鳴と現実とを突きつける。
通路へと続く部屋の扉は開け放たれたままだ。なぜか。
「いつ聞いてもいい音だぜ。げっげっげ・・・もっと叫んでくれよ」
「くく・・この地下牢の設計の面白いところを教えてやるよ。もともとここの岩盤は音が反響しやすくてね、通路の先にある全ての牢獄へ悲鳴が繰り返し届くようになっているんだよ」机においてある白い粒をもてあそんでいた獣の指が、白い尻の赤い血が流れ続ける傷口に激しくめり込む。「ああぐう・・・・あああ・・」あまりの痛みに、声は言葉にならず、体が痙攣で震える。少女の部分から透明な液体が伝い流れ落ちては床を濡らしてゆく。看守が狂喜の声をあげる。
「さらに音は、この島の外側にも増幅されて伝わるようにもなっている。お前の恐怖が、警告として皆に伝わっているんだ。そのたびに抵抗しようという考えが、人々の中から薄れてゆく。すばらしいと思わないか?お前の悲鳴も役に立っているわけだ・・」尋問官の手が、エイトのその白く、繊細なガラス細工のような顔をなであげ、そして強引に自分の方に顔を向けさせる。とめどなく涙があふれている。
「お前は、美しい。まるでどこかの貴族か、お姫様のようだな。・・・その少し長めの耳は、まるで噂にきく妖精かなにかのようだ」
エイトの頭に巻かれたバンダナが外れると、美しい耳が隠さず覗きだされ、黒真珠のようにつやのある長い髪が落ちてくる。
「お前は一体どこからきたんだ?」毛深い右手の親指と人差し指が耳をさする。左の中指が少女のもっとも敏感な濡れた部分をこすりあげる。すでに、抵抗はない。
「くうあ・・・・・・わかん・・ない・・・・」耳をつかむ指に強い力が入る「・・・ほんとだ・・よ・・・・ボクは・・・みなしごだった・・から・・・」
「・・・では。その後育ったのは何処だ?」光を失った瞳。確認するように覗き込む。
「・・・・ものごごろがついたころには・・・トロデーンに住んで・・た・・・・トーポが、お城に入ってゆくのを・・追いかけていったから・・・」震える声。一度流れ始めた言葉は、決壊した堤防のようにせき止められることはなかった。
「・・・・トーポとは誰のことだ?」目的を達成しつつある獣の手が、やさしく髪をかきあげる。だが、左手の愛撫はそのままなのか。
「・・・・」菫色の瞳が、悲哀の色を燈し、何かを探す。聞こえているのか、いないのか。「・・トロデーンは・・・なんであんなことになったの・・・・・ボク・・・いてもいいと言ってくれた・・・・たった・・・ひとつの場所だったのに・・・・・・・」
「・・・」
「・・・ボクは・・・やらなければいけなかった・・・ボクしか・・・・残らなかった・・・だから・・・でも・・なぜ・・・なの・・?・・ロデ・・・・ティア・・・いなきゃ・・・な・にも・・・らないのに・・もう・」
今や、エイトに見えているは、目の前の景色ではない。押しつぶされそうな想い。まだ大人になりきっていない少女に課せられたカルマは、そんなにも重くのしかかっていたのか。それを支えていた希望を、すでに見失っているのか。寂寥が、冷たく濡れた足まで広がってゆく。
「それで、城を出た後は、何処で、何をしていた?ロデとティアとはだれのことだ?」ゆっくりと、静かに尋ねる声。だが、声とうらはらにその獣の口元だけが耳元まで引き伸ばされる。
沈黙。期待された答えは返ってこない。
気を失っているわけではないのは、獣の愛撫に反応する吐息と、時々震えるその膝が示している。では、何も語らないのは、すでに全てを諦めたからなのか、それとも、まだ何か残されているからなのか、最後の抵抗なのか。

「おい、ちょっとまて、待たんか!」
走り出す3人と一匹の後ろから、二ノ大司教が呼び止める。怒りにも似た表情で立ち止まった3人が振り返る。小さな姿は、そのまま先を急ぐように走り去って行く。
「なんでがすっ」
「冷静になれ、気持ちはわからんでもないが」
「何よっ」
「落ち着けといっているっ!この先にはまだ、武器を持った守衛が10人はいるぞっ。・・・おぬしら、素手で向かって切り抜けられるのか?」
ゼシカとククールが顔を見合わせる。ヤンガスは落ち着かなげに足踏みをしている。
「ほれ、これを持ってゆけ」
手を伸ばし、二ノ大司教は床に転がる斧をヤンガスに放り投げた。空中で器用につかみ取ると、1、2度斧を振り回しその感触を確かめる。確かにこれがあれば、何にも負けるきがしない。
「もう、いいでがすかねっ?あっしは行くでがすよっ」言い終わる前から走りだすヤンガス。あの重そうな体からは、信じられないほどのスピードで消えていった。
「これ、落ち着けというのに・・・まったく・・・。ほれっ」
苦々しげに呟くと、二ノ司教はククールに鍵の束を投げた。
「確かこの少し先に武器庫がある。そこにお主たちの武器や持ち物もあるはずじゃ。囚人の所有物はいったんそこにしまわれる決まりになっておる」
「本当に?」
「別に、囚人に返すためにあるのではなく、後々交渉の道具として使われることを目的として蓄積してあるだけだ。だからこそ、全てのものがそこにあるはずじゃ」
「やけに詳しいな」ヒューと高く口笛を鳴らすククールに、ジロリと一瞥をくれると、二ノ大司教は落胆したようにうつむいた。
「それはそうじゃ、ここの設計はわしの指揮でやったのだからな。・・・まさか自分で入ることになるとは思わんかったが」
「それなら、地上に抜ける秘密口でも知っているんじゃないの?」期待を込めてゼシカが尋ねる。あの小さな昇降機では、一度に3人か4人が乗るのが精一杯だ。
「残念ながら、そんなものはない。そういった意味では、恐ろしいほどここの設計はよくできておるよ」
ため息が、うなり声とともに吐き出される。
「そんなことより、急がなくて良いのか?あのガスダルマは先に走り去ったぞ。いくら強くても、一人では限界があるはず」
「おっさんも、一緒に来いよ。それこそ、ここに一人でいたらあぶないんじゃないのか?」
「いいから行け。わしにはまだやることがある。がんばれ。お前たちにはお前たちにしか、できんことがあるだろう。いけ」
二ノ大司教が、ゼシカとククールの背中を叩くと、はじかれたように2人は走り出した。
「まったく、危なっかしいやつらじゃ。しかし、若さか・・・」思い出すような目で遠くを見つめるように上を見上げ、薄くなって久しい頭を触ってみた。
「・・・・・・さて」

尋問官は、小さく舌打ちすると目を細め、口元の笑みを消した。少女の奥に深く進入しようとした左の獣の指は、その手前で止まる。エイトの白い小さなふくらみにしつこくしゃぶりついている看守を横目で見ると、苛立たしくその腹を蹴り上げてあごを右側に振った。
「俺は、素直なやつには優しいと教えたな。・・・・・お前はかわいそうなやつだ。何をお前のような少女の身に背負う必要があるというのだ?心の底では、お前は常に孤独だった。俺にはわかる」孤独の言葉に、エイトの頬がピクリと震える。「お前のことをもっと知りたい。俺がお前を理解してやろう。俺も孤独な男だ。だからやさしくできる。お前の孤独を知れば、お前は独りじゃなくなるんだぞ」
エイトの菫色の大きな瞳から、大きな涙があふれ、流れ落ちる。何かを求めて、その美しい顔が、瞳が獣の細い目を見上げる。
やさしさとは、一体何なのか。それがやさしさだとでもいうのか。しかし、今のエイトには本当のやさしさなど理解できるわけもないのか。
なんということだろう。
「・・・ボクは・・・・・・・ボクを・・・理解する?・・・・・」
「そうだ」
「・・・・ボクは、ボクを知りたい・・・・・どこから来たのか・・・・どこに行くのか・・・・ボクはだれなのか・・・・でも・・・・・こわい・・・・・ボクはボクを知るのが・・・・・・・・こわい・・・・よ・・・」
それが、心の闇か。白く美しいその少女の胸の下に、エイトの中につもる白い雪の下に、誰にも知られずひっそりと埋もれていた鉛色の錠の正体なのか。では、鍵はいったいどこに?
尋問官は、エイトの後ろから髪をすくい上げ、抱きしめるように、その小さなふくらみを握り締めた。耳元で、囁く。
「怖くはない。俺に教えてくれ。お前のことをもっと・・・・・さあ」その汚らしいくゆがんだ口から、黄色い歯が覗く。目が、勝ち誇ったかのように笑っていた。


いつからか、小さなねずみの姿が、扉の傍にただずんでいた。その背のたてがみが、小さく、小刻みにゆれていた。まるで、エイトの揺れる心に同調するように・・・・・。

「・・・ああああああ・・・・」エイトの口から、ため息とも、安堵とも感じられる喘ぎ声が切なく流れ続ける。





つづく