晴天の中、サザンピーク城はいつになく慌しげだった。
と言うのも、一人の少女がお披露目されるとあって前晩からパーティの準備やらで皆眠る気配がなかった。
エイトが誕生して18年目のお祝いだった。
誰が教えてくれたともわからないこの日をミーティア姫、トロデ王をはじめトロデーン城の人々が祝ってくれた。
いつも大きなケーキを用意してくれて、みんなでその晩小さなパーティを開く。
今目の前にしている光景より全然質素で地味ではあるが、とても楽しいものだった。
だが今日は亡きエルトリオの忘れ形見が見つかったとあって、クラビウス王が是非サザンピークでと招待されたのだった。
お祭り気分の民衆たちを見てエイトは城の客間で一人溜息をついていた。
「・・・今年はヤンガス達を招待してトロデーンで祝ってほしかったんだけどな・・・」
招待状を出そうとした所ちょうどこの誘いが届き、叔父であるクラビウスのきってのお願いとあってエイトは断ることができずにいた。

大臣が呼ぶ声がする。
椅子から腰を上げるとドレスの裾がふわりと広がった。
慣れないハイヒールに苦労しながらも扉の先で待ち構えていたクラビウスに手を引かれ、外へと誘われた。
初めて見るエイトの姿に騒いでいた民は静けさに包まれた。
「エルトリオ様・・・」
一人がそう呟くと次々に同意する声が波紋のごとく広がっていく。
「綺麗」「素晴らしい」などと褒め称える言葉も沸き起こってくる。
少し不安な表情を浮かべるエイトとは裏腹にクラビウスは満足げに自慢の姪だと笑顔を浮かべた。
「さあ、皆のもの!我が姪であるエイトのめでたき日だ。今日は羽目を外して祝おうではないか」
テラスからクラビウス王が呼びかける。
地面が震えるほどの歓声が沸き起こった。

エイト18歳の誕生日はこうして派手な幕を切って落とされた。

「はぁ・・・」
徐に疲れた表情を浮かべハイヒールを脱ぎ散らかす。
靴擦れを少し起こしかけた足を擦りながらベッドに腰を下ろした。
「トロデ王とミーティア・・・どこにいるのかなぁ」
一緒に客として招かれたので近くの席で祝ってくれていたはずだが、あまりの出来事が続いたため確認する余裕がなかった。
そういえばチャゴス王子の姿も見てないっけ、と嫌でも目に付く巨漢の王子を思い浮かべる。
「ミーティアとの式、めちゃくちゃにしたの怒ってるのかな・・・」
そんなことを考えていると、扉をノックする音が聞こえた。
メイドがイブニングパーティの仕度をするためにやってきたらしい。
先ほどと打って変わって、肩を露出させる大人びた細身のドレスをサイズ確認のため体に当てられる。
よくお似合いになりますわ、と女性の王族がおらず着せ替えの楽しみがなかったせいかメイドの声は弾んでいる。
「・・・えっと・・・ボク、ちょっと汗流したいんだけど」
女の人にべたべた体を触られるのが恥ずかしいのか、メイドから少し距離を置いた。
「でしたら浴場までご案内いたしますわ、御身体洗う係も何名か呼んでまいりますので」
「い・・いいよ・・!自分で洗うから」
ああ・・なんて疲れるんだろう・・・トロデーンに帰りたい・・・
案内された浴場の扉を閉め、窮屈な衣装を苦戦しながらも剥いでいく。
広々とした浴室は誰もいないようでエイトは白い裸体を隠すことなく入っていった。
「・・・・・・あ・・!・・ミーティア達が何処にいるか聞けばよかった」
トロデーンでもこれほど大きな浴室はない。
ミーティアを誘えばきっと喜んだだろう・・・
「ぐふふ・・・ミーティア姫達は来てないぞ」
「え・・?!」
誰もいないと思っていた浴室を驚いて見渡す。
濃い湯気の中、ざぱーっと勢いのある音と共に巨体が浮かび上がる。
「チャゴス・・・・」
「おやぁ・・・自分も王族だってわかった途端に呼び捨てか?んふふ・・ふふ」
いつもなら飛び上がって怒り狂うくせに、今のチャゴスはにやにやといやらしい笑いを浮かべてエイトを嘗めるように見回していた。
さりげなく手で胸を覆うエイトに嘲笑を浮かべる。
「僕はみ・・認めないぞぉ・・・!おまえがサザンピーク王家の一員だなんて・・・」
「・・ボクは別に王家として生きるつもりはない・・・」
早くこの場を去らないと・・・・
腰を少しずつ後ろに退いていくとチャゴスもまた一歩一歩と詰め寄ってくる。
「お前のせいで僕は、父上にこっぴどく叱られちゃったんだぞぉ・・!お前のせいで結婚も台無しだ・・」
「そんなこと・・・」
「ぐふふ・・その顔・・!エイト・・お前僕に対して悪いと思ってるのか?なら今ここで責任を取れ・・!そうだ・・元々僕の家来だったんだからなぁ」
「・・きゃ?!」
派手な水音を立ててチャゴスが覆いかぶさってきた。
「んん?!なんだ今のは?女みたいな悲鳴だったなぁ・・・お!?これは何だ?女みたいに柔らかいぞ」
からかうようにチャゴスの膨れ上がった指が発育途上の胸を弄ぶ。
「や・・・やだ」
「何が嫌なもんか、女は皆こうやると嬉しいんだ・・!うひひ・・!」
ぎゅっと膨らみを抓られ苦痛にエイトの顔がゆがむ。
「助けを呼ぶのか?呼んだって誰も来ないぞ?あのお前の従者だって招待されてないんだ」
「・・・じゅ・・・従者って?」
「げすげす言ってた下品な男いたじゃないか?ころころしたデブ、アイツだよアイツ」
「・・・ヤンガスのこと?・・彼は従者じゃない!それ以上に彼のことを悪く言うのは許さない!」
細腕からは想像できないほどの力で巨体を払いのけ、普段とは一転すごい剣幕で怒りを露にしたエイトにチャゴスもあっけに取られてしまった。