>691-693氏

(こ、こ、困ったなあ。どうしよう。)
宿をとった部屋のベッドにひとり腰掛け、エイトは自分の背中に手を回したりしながら焦れていた。
(このままずっとこうだったら、本当、どうしよう。トーポ、君が人間だったら頼めたのに…)

そのようにエイトが悶々としていた時、丁度、部屋のドアをこんこんと軽くノックする音が響いた。
「兄貴いやすか?夕飯なんでがすけど、どうしやす??」
「ヤンガス!」
ああ!いいところに来てくれた!!エイトは腰掛けていたベッドから飛び降り、駆け出し、勢いよくドアを開ける。
「わっ…」
「?」
ドアという隔たりを無くした二人は、互いの姿を確認する。
ヤンガスはエイトの姿を見るなり、顔を赤らめ、何かを誤魔化すようにゴホゴホ咳込み、僅かに視線をあさっての方向へとそらした。
「いやっ、何ていうか、あー、部屋割りを間違えちまったかもしれやせんね」
「何で?仕方ないじゃない。ゼシカもククールも、一人部屋がいいって言うんだもん。宿屋さんにだってその時の都合があるし、僕は別に全然構わないけど…
……嫌だった?僕と相部屋」
「っえ。いやいや!まさかそんなっ、兄貴と同じ部屋なんて神さんに感謝こそすれっ、アッシは、本当でげす!本当っ」
エイトの見せた悲しげな表情に、ヤンガスは慌ててまくし立てた。
何時もは気を張って、皆へリーダーシップをとっている凛々しく頼もしい兄貴(エイト)だが、変なところで素直に幼い面がある。その兄貴に惚れているヤンガスとしては、そんなギャップが堪らない。
ついでに物申せば、エイトは自覚が少々足りないのだ。いつもぎりぎりの所で理性を保っているヤンガスは、自分で自分のことを褒めてやりたいとすら思っていた。

「いやそのね、アッシにはその兄貴の姿が眩し過ぎるっつーか、目に毒といいやすか、幾ら何でもゼシカの姉ちゃんの頼みとはいえ、そりゃーねえでがしょ」
「そうそう!お願いがあるんだヤンガス!!」
「へ?」
ヤンガスの言葉に本題を思い出したのか、エイトが身を乗り出した。
「お願い、脱がすの手伝って!あぶないビスチェ!!」
空気が凍る。ヤンガスは兄貴の言葉に耳を疑った。ヤンガスの驚愕心に気付かないエイトは、尚も頼み続ける。
「こんなの着たことなかったから、脱ぎ方がよくわからないんだっ。こんなスースーするの着たまま寝られないよおっっ」

ヤンガス、心の中で叫ぶ。……アッシにどうしろと??


おしまい




+++




>701氏  パルミドにて

ミーティアを無事取り戻した一行は、パルミドで宿を取る事にした。
その晩、皆が寝静まった後、エイトはヤンガスをそっと起こし、スラム街の奥の、階段を上った先へ連れ出した。

なかなか話を切り出さないエイトを心配そうに見つめるヤンガス。
暫くの沈黙の後、エイトが重い口を開いた。
「ねえ…ヤンガス」
「なんでげすか、兄貴」
「ビーナスの涙を渡しに行った時、最後にゲルダさん、ヤンガスの耳元で何か囁いていたよね。なんて言っていたの?」
エイトはゲルダに対する嫉妬心を押し殺し、思い切って聞いてみた。
「大した話じゃねえでがす。『エイトの兄貴を守ってやれ』ってな事を言われただけでげす」
「それだけ?」
あっさりした答えに拍子抜けするエイト。

ヤンガスは、更に言葉を続けた。
「そんな事は、ゲルダに言われなくても分かっているでげす。あっしは、ドルマゲスの野郎を殺った後も兄貴に付いていき、一生守ると決めているでがす」
最後の方のセリフを妙に強調するヤンガス。
エイトは、心に支えていたものがすうっと溶けていくのを感じた。
「ヤンガス。僕も、ヤンガスにずっと傍にいて欲しい。僕もヤンガスを一生守るよ」
エイトとヤンガスの間を、暖かく柔らかな風が通り抜けた。

「…そろそろ戻ろう、ヤンガス」
「そうでげすね、兄貴。怪しまれないうちに宿に戻るでがす」
二人は並んで、ゼシカ達を起こさぬよう、静かに宿に戻った。
道中、一言も言葉を交わす事はなかったが、もはや二人の間に言葉は必要なかった。

あの時ヤンガスが、
(本当は、ゲルダに『ヤンガス。バンダナの彼女を守ってやりな』と言われたでげす。でも、姉御が自分から『本当は、僕は女なんだ』と話すまで、あっしの心の奥にしまっておくでがす)
と思っていた事は、今はまだ、エイトには秘密である。




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>703-704氏
689の続シリーズ
『乳とエイトと練金と怒られしヤンガス』

パフパフ屋から戻った一行。
満足げな男達を横目にエイトは思い詰めた表情をしていた。
その夜ー
眠れないで外に出たゼシカは馬車の前で泣きながら練金に精を出すエイトを見つけた。
エ「ひっくひっく…。」
ゼ「ちょっと!エイトこんな時間に何やってるの!?
あっ!だ、だめよ練金釜にスライムと鉄の胸当てなんか入れちゃ!!」
エ「うわーん!付けるだけで胸がボインボインになる魔法の乳あてを作るんだー!!邪魔するなー!離せー!」
ゼ「無茶よー!スライムは形は似てるけどおっぱいじゃないわー!!」
ゼシカは暴走するエイトをなんとかなだめた。
ゼ「一体どうしたって言うの?」
エ「ひっくひっく…だってヤンガスが…ヤンガスが…パフパフ屋で『やっぱりぱふぱふは大きいのに限るでげすなぁ』って…」
ゼ「全く、あの馬鹿!デリカシー無いんだから!あたしが言うのもなんだけど女の子が胸の大きさなんか気にしちゃいけないわ。
よし、あたしがヤンガスを起こしてきて謝罪させてあげる!」
エ「え、ちょっ…ゼ、ゼシカぁ!」
ゼシカに引きずられてヤンガス登場。
ヤ「う〜ねみいでやんす〜。何か用でがすか?」
ゼ「眠いじゃないわよ!この自分に素直男!エイトに謝りなさい!微乳馬鹿にしてすんませんっしたーって!」
ヤ「ば、馬鹿になんてしてねえでげすよ!あっしは思ったことを隠せないだけで…」
ゼ「女性の敵!!夢から覚めなさい!」
ヤ「そんな乳したゼシカの姉ちゃんに言われたかねえでげす!」
ゼ「じゃあ、微乳もアリなのね?」
ヤ「も、もちろんでがす!!-………でも無くても良いけどちょっとはあった方が…」
エ「うわーーーん!!どうせ僕の乳は卑屈過ぎだーーーー!!」
ゼ「あっ、ちょっとエイト!?」
ヤ「やめるでがす!鉄の胸当てとキングスライムを練金釜に詰めるのはやめるでげすー!!姉御ー!」

ククール「女の人を胸で判断することは良くないことですよ〜」
トロデ「ラーラララーラララーラララーラ…」